ミリタリーアイウェアという最強のメガネ

コロナ禍や自然災害、そして経済の低迷……。今の世の中には様々な“不安”がいっぱいです。最近「コスパ」という言葉をよく目にするのも、出口の見えない閉塞感の中で少しでも損をせず、値段以上に得をしたと思えるモノを求める心理なのではないでしょうか。

そのもっとも懸命な選択肢の一つが「タフで機能的で有事に際にも使える」ギアを持つこと、と言えるでしょう。アイウェアの中にもそんなコスパ最強なジャンルがあります。それが『軍用アイウェア』です。

僕の記事で何度もミリタリー由来のアイウェアを紹介してきましたが、今回はド直球のミリタリーアイウェア(サングラス)に的を絞ってみましょう。

 

1990年代以前の軍用アイウェア


以前に紹介したアヴィエイターグラスは現在、ファッションのキーアイテムとして広く認知されているのはご存じの通り。アヴィエイターとはパイロットを指しますが、アイウェアを最も所望するのは地上での作戦に展開する陸上部隊でしょう。こちらはまだギアの匂いがプンプンする、極めてヘヴィーデューティーなアイウェア。

ちなみにアメリカ軍で使用するアイウェアは、たとえサングラスやメガネの形状であっても“ゴーグル”と呼ばれることがほとんどです。しかしここではスキーで使うタイプのようなゴーグルにも話が及ぶので、サングラス・メガネ形状=アイウェア、スキーゴーグル形状=ゴーグル、と言い分けることにしましょう。


さて、およそ’90年代までは戦場でアイウェアを使用する兵士、といえば視力矯正が必要な者たちを意味し、黒縁のプラスチックフレームが支給されていました。それ以外の目的で使われていたのは、通称“ダストゴーグル”と呼ばれる一眼式ゴーグルです。

このダストゴーグルは爆撃機のガナー(機銃手)や戦車兵、またヘリコプターからロープで降下する急襲作戦時に使われてきました。第2次大戦時に登場したM-1944からほぼカタチを変えずに、現在でもM-1974が使用されています。

クリアレンズと非常に濃い色のスモークレンズが用意されており、粉塵や強い閃光から目を守るもの。しかし旧時代からの支給品で、クオリティはあまりよくありません。僕個人もノスタルジックなデザインから、クラシックバイクに乗る際に使っていましたが、すでにレンズは傷だらけでゴム製のストラップも劣化してしまうのが難点。

 

2000年以降の軍用アイウェア


顔に沿ってカーブした形状のラップアラウンドサングラスを掛けることが当たり前になったのは2000年以降になります。その引き金となったのは中東への派兵です。

砂漠地帯の強烈な日差しは言わずもがな、建物という建物をくまなく探索するにはゴーグルの視界は不十分。さらに熱風を伴う暑さはゴーグル内部の汗とレンズの曇りで視界だけでなく正確な判断能力すら低下させてしまいます。さらに市街地でのテロ攻撃で金属やコンクリートの破片が飛散し、目を負傷する兵士が増えました。

そんな折に、スポーツサングラスを戦場に持ち込んだのが陸・海軍の各特殊部隊員でした。前回の記事でも申し上げた通り、彼らは一般の歩兵部隊とは異なる特殊作戦に従事します。時には長距離の偵察や民間人を装って行動することも。そのために各作戦に最適な武器や装備を自分たちの裁量で調達することができるわけです。


一般兵と特殊部隊の装備の差は、リドリー・スコット監督の映画「ブラックホークダウン」で垣間見ることができます。先程の画像は同映画のレンジャー部隊員ですが、支給品のケブラー製ヘルメット“K-POD”にダストゴーグルを身に着けています。一方この画像はデルタフォース=陸軍の特殊部隊ですが、スケーター御用達の“プロテック”社のヘルメットにオークリーの“Oフレーム”ゴーグルを装着しています。

こうした装備品に選択肢がある特殊部隊員が、オークリーのサングラスに目を付けたことから広まり、最終的には軍の予算として採択され、一般部隊への支給が開始。そして強豪のアイウェアメーカーのミリタリー市場参入が始まったというわけです。


特筆すべきはフレームだけでなくレンズの強度も充分であること。22口径の弾丸を跳ね返す、もしくは吸収するほどの強さを持ったレンズは実際に銃の直撃弾ではなく、ブービートラップやRPG(ロケットランチャー)などの攻撃時に、高速で飛翔してくる破片などに対して防御性が高いことで目を保護します。

 

軍用アイウェアに求められる機能

特殊部隊から端を発したスポーツフレームの採用は、なにもカッコいいから使っている、当いうわけではありません。そこには優れたギアとしての、確たる機能があるのです。軍用アイウェアに求められる機能は以下に集約されます。

1.視界が広い
8カーブを中心にラップアラウンド形状が多く、見渡せる視界が広いこと。同時に粉塵などが入りにくいこと。

2.視認性が低い
使用者の視界が広いのとは反対に、敵からは見えにくくあること。太陽に反射したアイウェアによって敵から発見されないよう、フレームの多くはマットフィニッシュされています。また近年ではレンズも反射を防ぐハーフマットフィニッシュが話題となりました。

3.軽量性に優れていること
長時間の装着でも兵士に負担の掛かりにくい重量であること。そのため各フレームカンパニーは少しでも軽い素材開発や構造を開発しています。

4.頑丈で安全性が高いこと
これは軍用の装備品として非常に重要な機能で、フレーム&レンズともに耐高速度衝撃性、耐重圧度衝撃性に優れた素材が選ばれています。中でもレンズには爆発などによって飛散した様々な破片により破損しないよう、厳しいMIL.SPEC(注) “MIL-PRF-32432”を設けています。

※(注)MIL.SPEC.とは主に米軍が定めた、装備品および使用される素材等々の品質規格。たとえばスナップボタンは何万回の開閉運動に耐えうる素材・構造でなければいけない。食堂で供されるチェリーパイのチェリーの大きさなどにも細かく規格が設けられている。

 

軍用アイウェアの銘品5選

それでは実際に軍用アイウェアの代表的なモデルを紹介しましょう。どのモデルも米軍の特殊部隊が採用、あるいは彼らの要請で開発したもの。つまりは実際にクリティカルな場でその実力が認められた、プロフェッショナルのお墨付きモデルです

OAKLEY “SI M FRAME”


スポーツサングラスの記事でもオークリーと米軍との関係を述べましたが、これがその正式採用モデルです。“SI=スタンダードイシュー”とはミリタリーや法の執行機関に対応した新技術を開発する専門部門であり、ここで開発されたモデルです。豊富なオプションレンズやフレームと顔を密着させて粉塵の侵入を防ぐガスケットなどのパーツで、個々人に合ったカスタムが可能なのも特徴。現在も多くの愛用者がいます。


 

ESS “CROSSBOW”


2007年にオークリー社と合併し、軍用アイウェアに特化するカンパニー。米4軍(陸・海・空軍および海兵隊)の他、自衛隊でも使用されるなど、知名度をグングン伸ばしています。中でもこのクロスボウは高い人気を誇る代表モデル。ESS社が採用するレンズは10mの至近距離から6発のショットガンを撃っても弾が貫通しないほど強靭。海軍きっての特殊部隊“SEALS”や海兵隊の正式採用品として、年間30万ペアが供給されています。


 

GATORZ PRECISION BUILT EYEWAR “MAGNUM”


1989年創業のブランド。他と一線を画すのが超軽量かつ強靭なアルミニウム合金“T6.7075”=超々ジュラルミンのフレームで、原材料から1本ずつ削り出して生産しています。またレンズは1.8mm厚のポリカーボネイト・バリスティック(防弾)レンズを採用。米海軍特殊部隊“SEALS”に愛用者が多く、彼らの要請でフレームをマットブラック処理しています。また陸・海軍のパラシュート部隊も正式採用するタフさがウリです。


 

SMITH OPTICS “AEGIS”


1965年にスキーヤーのボブ・スミスがスキーゴーグルを自作して以来、アクションスポーツ界の重鎮ブランドとされています。その彼らが2012年から米軍に正式採用されているのがこのモデル。視界の歪みを最小限に抑え、1枚ごとにアンチフォグ=防曇加工を施したレンズの視界は非常に広く、防弾性の厳しいMIL.SPEC.をクリア。アジア系の兵士も多く、また日本をはじめとする各国の民間市場にも訴求すべく、アジアンフィットモデルも用意されています。


 

WILEY X “SG1S“


15年前に発表されて以来、進化を続けている軍用アイウェアで、アメリカ軍が正式に採用しています。彼らが独自に開発した“SELENITE”レンズは耐高速度衝撃性、耐重圧度衝撃性に優れており、状況に合わせたオプションレンズの着脱も容易で、さらにテンプルをストラップに変更することで、よりゴーグルのようなフィット性を実現。実在した凄腕の狙撃兵、クリス・カイルの自伝映画「アメリカンスナイパー」にも同社のアイウェアが登場します。




 

まとめ

いかがでしたでしょうか? ファッション、という視点からはコーディネイトでひとヒネリ加える必要があるでしょうが、極限状態で兵士たちの目を守るタフさと機能性は、あなたが窮地に立たされた時こそ、その本領を発揮してくれるでしょう。もちろん、そんな状況に直面することなく平和な世界で暮らしていけるのが一番なんですけどね!

 

 

 

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