今、アメカジ好きに注目を浴びるG.I.メガネ「R.P.G.」あるいは「B.C.G.」とは?
80年代後半から90年代の終わりまでアメカジ業界のど真ん中にいた筆者ですが、あれから30年以上経った今も若者のファッションが、アメカジベースなことに驚かされますね。とりわけミリタリーアイテムは男女問わず浸透している様子で、定番のMA-1やカーゴパンツだけでなく、最近ではテック系と呼ばれるプリマロフトやゴアテックスの防寒着やフィジカルトレーニング用のジャージまでが、ストリートスタイルに溶け込んでいます。
個人的に一番面食らったのが、著者が若かりし頃に実践して「どてらじゃん、カッコわるっ」と女子に不評だった、ひょうたんキルトライナー(=M-65フィールドジャケット用キルトライナー)やら、白いモコモコライナーコート(=M-51やUSAFのフィールドジャケット用ウールパイルライナー)やらが、一昨年辺りに女性のカジュアルトレンドになったことですかね。
CHECK!!
古着&セレクトショップ市場に出回っている「G.I.メガネ」
きっと古着好き、ミリタリー好きなセレクトショップのバイヤーが火付け役になったのでしょう。当初こそ米軍払い下げのヴィテージモノが流通していましたが、とうとう国内アパレルブランドやファストファッションまでが新品をつくってしまうほど過熱しました。よって本来は「ダサい」の象徴が、柔軟な発想で「カッコいい」へ変換されるのはよくあること。実はメガネにもそんな対象があって、最近気になるフレームがアメカジ系の古着屋やセレクトショップで扱われているんですよ。
それがこのフレーム。アメリカ軍が視力矯正の必要な兵士に支給していたR.P.G.(=Regulation Prescription Glasses)、いわゆる標準処方メガネ「S9」型で、別名GI(=Government Issue)グラスとも呼ばれていますね。
刻印の“USS”とはUnited States Safety Service CO.の略称で、この会社はアメリカ軍にメガネフレームを納入する総合商社のような存在。同社がアメリカに生産拠点をもつフレーム製造会社にOEM生産を依頼し、それを束ねてアメリカ軍に納入する、という仕組み。こうしたメガネフレームの生産は、過去にはAMERICAN OPTICALやTART OPTICAL、SHURON、そして最大手だったBAUSCH & LOMBなどが請け負ってきた歴史があります。
G.I.メガネ“S9”型の素性を探る
「S9」型においてはROCHESTER OPTICAL MFG.(ROMCO)やHALO OPTICAL PRODUCTS, INC.、PARMELEE INDUSRIES, INC.などの国内ファクトリーが生産し、1970年代初頭から2000年代初頭もの間、アメリカ軍に採用されていました。現在はROMCOが設計・製造を担当した、さらに軽量でシンプル、そして男女共用の「5A」型が後継モデルとして採用されています。したがって現在は、S9型の余剰在庫が払い下げられて多くが市場に出回っている、という状況です。
まるでアメリカで売っていたレコードの梱包のように、粗末な紙袋とソフトケースにS9型は入れられて、S9型はアメリカ軍に納入されます。製品名やサイズ、会計番号を示すDLAナンバー、生産業者などが印字されており、この画像の個体は1991年度の会計分で、納入業者は前述したROCHESTER OPTICAL MFG.とあります。
なんとも魅力的な「ビールボトルカラー」。最近はこの色を再現するアイウェアブランドもありますが、その元ネタがこちら。とはいえデモレンズすら装着されていないので、買うならばフレームに歪みのない個体を選びたいものです。
ちなみにヒンジは頑丈な7枚丁番。このへんにミリタリーらしさを感じさせます。
こちらは俗に初期型と呼ばれるブラックモデル。さらに偏光レンズでカスタムされています。こうなるとカッコよさが増します。
こちらはS9型の女性用モデルで、少々丸みを帯びたシェイプです。これまた女性が掛けるとすこぶる不評でして(笑)。
“S9型”に与えられた、不名誉ながらも愛すべきストーリー
さて「S9」型が人気を集めているのはレイバンのアヴィエイターやオークリーのMフレームのように、ミリタリーならではの質実剛健なストーリーやドラマチックな開発秘話が背景にあるから、ではありません。S9型にあったのは不名誉ながら親しみを込めてつけられた“B.C.G.”というあだ名。
B.C.G.とはBirth Control Glassesの略で、出産を抑制するメガネ=避妊メガネを意味します。どういうことかというと、このメガネをかけると誰もがダサく見えてしまって異性が寄り付かない➡妊娠するような状況、つまり一夜を共に過ごすチャンスがこないという米兵ならではのスラングなのです。本来はこんなメガネをかけている兵士はいじられキャラになりますが、この呪いをむしろ下品に絡んでくる男性兵を寄せ付けない“虫よけ”的に活用する女性兵も多かったとか(この場合は前述のR.P.G.をもじってRape Prevention Glasses=レイプ防止メガネなどと呼ばれることも)。
そんなサイドストーリーがあるからこそ、ヒネリの効いたファッションや遊びを兼ねて普段のメガネに選んだり、サングラスにカスタムしたりするオシャレさんが続出したわけですね。ちなみに彼女はクリストファー・ノーラン監督のイチオシ女優、アン・ハサウェイ。彼女もB.C.G.のリプロモノをギークにかけこなしていますね。
アメカジとは“アメリカ人のファッション”をソックリそのままコピーすることではなく、アメリカ出自のアイテムに本来の目的以外の空気を加えることで独自にファッションやデイリーユースに昇華する“ミックスカルチャー”。90年代に筆者世代がセルビッジデニムにハイテクスニーカーやゴローズをミックスしていたアメカジイズムが、アイテムを変えながらも現在に継承されているっていうことですね。
実川 治徳
フリーランスライター
アパレルブランドの店長、プレスを経て2000年からフリーランスライターとして活躍。アイウェアやファッションに特化した記事をメディアに寄稿し続ける。2005年から眼鏡の専門誌として知られるワールドフォトプレス発行の「モードオプティーク」にて、アイウェアの国際展示会SILMのリポートを執筆し、世界中のデザイナーと親交を深める。2016年からはネコ・パブリッシングがバックアップする「V MAGAZINE JAPAN」の編集・執筆を手掛け、世界のアイウェアシーンを発信する。フリーランスのフットワークの軽さを活かし、現在はメガネブランド「GROOVER SPECTACLES」の北米向けセールス&プロモーションを担当。
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