「オトコのメガネ考」 “ティアドロップ“

ティアドロップは好きですか?

オトコのメガネ考、その第二弾は「ティアドロップ」。いきなり難易度の高いカタチを指名打者としました。何しろ欧米では“超”がつくほど定番なのに、ドメスティックブランドでは作っても全然売れないといわれるクセモノ。けれど僕は数あるアイウェアデザインの中で、最もティアドロップが好きなんです。正確には“アヴィエイター”と呼ばれるこのデザインが、ファッションからのアプローチからではなく“ギア”として生まれた、質実剛健さがそうさせるからです。

アヴィエイターとは飛行士を指す、古くからある呼び名。今ではパイロットというのが一般的ですが、アメリカ海軍では今も飛行士をアヴィエイターと呼んでいます。なぜなら彼らがパイロットと呼んでいるのは“水先案内人”を意味するため。ちなみに万年筆のパイロット社の社名も、この水先案内人に由来します。

マイ・サングラス・ヒーロー。 映画「コブラ」のスタローンは本当にカッコよかった。この映画がキッカケでアイウェア好きになったといっても過言ではないでしょう。以来、海外に行く度にレイバン(ボシュロム時代)を買い足して、ティアドロップだけで15本は所有していました。

 

昭和の功罪

ティドロップ(ここでは便宜上、親しみやすさを鑑みて、こう表記します)は前述の通り、日本では掛けにくいフレームの筆頭にあります。その元凶になっているのが某軍団の刑事ドラマ。確かにカッコよかった。ヒロイックだった。けれども、あまりに現実味がなかったことがハードルを高くし、我々一般人が掛けることを躊躇させてしまったと言えるでしょう。この思考回路は令和に入っても、どうやら定着しているようです。

 

ティアドロップ、ギアとしての歴史

その毒性を知ってもなおティドロップは男のロマンをかきたてるアイテムに変わりはありません。それは先に述べた通り“ギア”として生まれた出自にあります。その代表として、いの一番に名前が挙がるのが、以前僕の記事で触れた「レイバン」でしょう。彼らが開発したレンズに対応するフレームは当時の標準だった革、もしくは布製のヘルメットの視野に沿ったサイズ感、高高度を飛ぶ際に装着する酸素マスクに干渉しないシェイプが求められ、その結果として生まれたのが涙滴型のフレーム&レンズシェイプでした。
引用:THE EYEWEAR BLOG
1941年に採用されたAN-6531。ANとは陸軍・海軍の共用の装備品であることを意味しています。

その後、航空機がレシプロからジェット推進に進化し、ベイルアウト(脱出)時にコクピットのシートごと射出されるシステムが開発されると、頭部を保護するハードシェルヘルメットが採用されます。そのヘルメット形状に合わせたやや小ぶりなフロントシェイプと、ヘルメットを着用したまま着脱ができるようバヨネットテンプルを装備したサングラス「HGU-4P」が1958年に採用され、以降はこのデザインが現在まで継承されることとなりました。ちなみにバヨネットとは銃剣(ライフル銃の先端に取り付けた剣)を意味し、その形状に似ているからストレートテンプルをこう呼ぶようになったようです。

 

昭和の呪縛からの解放。そのメソッド

これだけ質実剛健なヒストリーを持ちながら、ティアドロップはなおも敬遠されています。その理由の根源と解決策を以下にまとめてみました。

 

〈顔のサイズに合っていない〉

小顔・痩せ顔に対してフロントサイズが大きいものを選ぶとチンピラ感が出て危険度が増します。その逆に、顔幅が広いのに小さなフロントサイズを選ぶと顔にめり込む感じと汗くさい印象を与えてしまうでしょう。その解決策としては、絶対的に自分の顔の大きさを知り、適合サイズを選ぶべし。

 

〈レンズカラーが濃すぎる〉

芸能人でもないのに、目線が見えないほど濃い色のレンズでお店に入ろうものなら貴方は“正体不明な男”認定です。他のデザインのサングラスならもう少しマイルドですが、ティアドロップでコレはマズい。決して(あっ、あの人カッコいい! 芸能人かしら⁉ )と思って貴方を見ているのではないことに早く気付くといいですね。その解決策は室内でも掛けたままでいられる薄色レンズを選ぶこと。目線が見えるとそれだけで相手の安心度は高まります。画像引用:https://ellegirl.jp/article/johnny_depp_joins_instagram_20_0417/
ジョニー・デップはランドルフ エンジニアリングが大のお気に入りで数本所有。
そのひとつに薄色レンズを取り入れていますね。 

 

〈アウトサイダーな髪型〉

角刈り・パンチ・スキン、その他俗にいうヤ〇キー系が好む髪型はティアドロップのヒロイックな歴史を木端微塵に破壊してしまいます。これら破壊神的ヘアスタイル以外でどうぞ。強面の御仁は、ちょっとクタッとしたトラッカーキャップを被って中和するのもアリでしょう。

 

今選ぶべきティアドロップ5選

上記のメソッドを踏まえたら、いよいよティアドロップを手に入れてみましょう。以下は僕が実物を品定めしたモノからセレクトしたもので、自信をもっておススメできるモノばかりです。

1.RANDOLPH ENGINEERING “HGU-4P”
画像出典:http://www.american-classics.net/
’80年代以降、アメリカ全軍および西側諸国軍のサプライヤーとなったランドルフ エンジニアリング。現在は民間へも市場を開いており、その初陣となった国際展示会で、創業者の曾孫で現CEOのヴァスケヴィチ氏は、僕の目の前でフレームを力いっぱい捻りあげて見せてくれました。それでもパーツが折れることがないんだぜ! と誇らしげに語っていたのですが、さらに噴霧状の塩水に3000時間も晒し続けるテストなども行っているそう。MIL.SPEC(軍が定めた仕様書)を遵守するということの凄さを思い知らされた瞬間でした。

2.EFFECTOR “PATTON”
今でこそ一般に浸透している「黒縁太枠のセルフレーム」を他に先んじて発表し、ストリートファッションブランドのデザイナーやクラブDJなど、クリエイティブな人々が目を付けたことで眼鏡業界に一石を投じたブランドです。そのティアドロップは、スウェットバー(2つのレンズをつなぐブリッジ上に設けたプラスチック製のパーツ)を配した、往年のレイバン“アウトドアーズマン”を彷彿させ、素材を現代のスタンダードであるチタンにアップデート。2種類のサイズ展開(PATTON Ⅱ)があるのも嬉しい限りです。

3.THIN GLASS “TAKA”
世界でも珍しくなった、伝統的な光学着色ガラスレンズを今も生産する大阪眼鏡硝子というレンズ工場のブランド。現在は染色したプラスチック製レンズが主流ですが、溶解したガラス原料と金属酸化物を混ぜて色を付ける昔ながらの手法を継承しています。現在はプロのフォトグラファーが使用するカメラや、医療現場で使われる精密機器のレンズをメインに生産しており、その優れたガラスレンズの性能を知ってもらうために、レンズ付きフレームとして立ち上げたそうです。ボシュロム時代のレイバンの名機、カリクローム・イエローレンズも同工場で生産を請け負っていたという逸話も。

4.8000 “8M1”
8000と書いて“オットミラ”と読む、ラグジュアリーブランド。アヴィエイターの定型からは外れますが、デザインソースは8000メートル級の山と対峙する登山家のサングラス、というだけあってダブルブリッジの無骨な面構え。サテンフィニッシュと銘打った艶消しゴールドの変則丸型シェイプに、ゼロフラットカーブのミラーレンズというスペックは、プロダクトとしてかなりのインパクトを与えます。レギュラーのティアドロップで場数を踏んだあかつきには、ぜひトライしてほしい1本です。

5.JACQUES MARIE MAGE “GONZO COLLECTION 「DUKE」”
いま最も注目されているブランドの1つであり、世界のアイウェアトレンドに風穴を開けたと言える存在。フランス出身でL.A.在住のJerome Mage氏は仏人としてのアイデンティティ、仏から見たアメリカ文化に、日本の職人技術をプロダクトに落とし込んだデザインが秀逸。その彼がゴンゾライターとして歴史に名を残すHunter S Thompsonへのオマージュとして、彼のトレードマークのティアドロップを「作品」にしています。元ネタはレイバンの名作シューターですが、思い切ったデフォルメが目を見張ります。限定生産だけに、すでに売り切れてるかも? 余談ですが日本で初めてMage氏にインタビューをし、彼のアトリエも取材した唯一の日本人ジャーナリストはなんと僕なんです!というプチ自慢だけはさせてください(笑)。

いかがでしたでしょうか。ティアドロップおよびダブルブリッジのフレームは、海外ブランド勢ばかりが目につきますが、ここ数年間で日本ブランドも思い切って取り入れているようです。もう一度言いますが、ティアドロップハギアとしての骨太な歴史を持つ“アンファッション”アイテム。今年は映画「TOP GUN Marverick」に刺激されて、にわかティアドロッパーがわんさかわいてくるに違いありません。扱い方を間違えれば大事故になる劇薬ですが、手懐けさえすれば間違いなくオトコを上げてくれます。今から実践すればアドバンテージは貴方にあることを決して忘れてはいけませんぞ!

 

 

 

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