真面目だけじゃない! 定番のボストンフレームを楽しむ
ビジネスからカジュアルまで、ボストンフレームほど守備範囲の広いメガネはないでしょう。多様性を求められる現代において、男女の別を問わずウケも良い。その最大の理由は「良い人っぽい」とか「優しそう」というイメージをアピールできるから、に尽きるのでしょう。もちろん世間のボストンに対するイメージとそれはイコールです。
これまで変化球的デザインのアイウェアばかりを狙って投下してきましたが、ここでようやくベーシックなボストンフレームに焦点を当て、そのポテンシャルの高さを探ってみましょう。
CHECK!!
ボストンフレームとは?
ボストンフレームの基本は、全体的に丸みがあってリム(フロントの枠)の下部がやや狭くなる、いわば“逆おむすび型”。と言っても、厳格な線引きはありません。日本ではさらに細分化してボストンとウェリントンの中間的なデザインを“ボスリントン”なんて野暮な和製英語で分類をしていますが……。
ちなみにボストンという型名も、以前のbootの記事にあるように日本で作られた“造語”であり、日本だけで通用する呼称。ヨーロッパではパントゥ、アメリカではピースリーです。
しかしながら、ボストンというネーミングのセンスは抜群だなぁと思うんです。ボストン➡マサチューセッツ州➡ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学➡エリート➡真面目➡そういう人が掛けていそうなメガネという連想を瞬時にさせ、博学で誠実そうなイメージを形作ってくれるわけですからね。
ボストンフレームの歴史
ボストンフレームは今でこそ、ひとつのデザインジャンルとして確立されていますが、その原型は1930年代頃のA.O.(アメリカンオプティカル)あたりのメタルフレームに見ることができます。この時代のメガネは依然として、読み書きができる上流階級や商取引を生業とする中流階級が中心でした。
それが1940年代、特に戦後を境に安価で大量生産の利くプラスチックフレームが市場に出回ると、ボストンフレームは一気に一般化。素材の選択肢が広がったことで、デザインにも奥行きが生まれます。
その後は古臭いデザインとして下火になりますが、クラシックとしてフィーチャーされてからジワジワと人気が高まり、日本では2010年代頃から広く一般に浸透し、いい人キャラの芸能人の方がこぞって掛け、そのフォロワーを倍増させたのが日本でのブームを下支えしていると言えるでしょう。
ボストンフレームの魅力
先にも述べましたが、ボストンという名前や丸みのあるフォルム、落ち着いた色合いなどから「知的」だとか「優しい」とか「誠実」を象徴する存在として広く喧伝されていますが、それだけじゃないのがボストンフレームの底力。
たとえばジェームズ・ディーンやアンディ・ウォーホル、ジョン・レノン、そしてブームの火付け役となったジョニー・デップ。彼らは、決して育ちが良くて勉強ができて誰とでも仲良く打ち解けて、なんて聖人君主のような存在ではなく、特定のジャンルに対してストイックなまでにこだわり、時には常識を逸脱したアクションで世間をあっと言わせる……。いわば“知的不良”の大家。
彼らは不良性を隠し持っていることをボストンフレームで蓋をしながらも、しかし不良性は十分に伝わります。擬態はしているのだけれど、それでいて「ご存じのようにこれは擬態ですよ」と公表している、そんなシニカルなロジックをメガネに込めているんじゃないかと考えずにはいられません。
ですので、たとえば真面目そうなボストンフレームに薄色のカラーレンズを入れてみたり、つや消しのフレームカラーを選んだり、とヒネリを入れて「知的不良のボストン」を掛けこなしてみるのも実に楽しいのですよ。
ボストンフレームの種類
一口にボストンフレームと言っても、実は素材使いによって様々なバリエーションがあります。その種類とおススメモデルを紹介しましょう。
■フルメタル■ Haffmans & Neumeister ハフマンス&ノイマイスター “Playfair”
ic! BerlinやMYKITAの首席デザイナーを経た、フィリップ・ハフマンスらが新たに興したブランドのイノベーティブなボストン。歴代のブランドで培ったスクリューレスヒンジ&ステンレスシートでボストンを現代的に昇華したもの。その軽さは異次元です。
■フルプラスチック■JULIUS TART OPTICAL ジュリアス・タート・オプティカル “AR”
ヴィンテージアイウェア界で希少性の高いタートオプティカルを、創業者の甥と彼の所蔵する豊富な資料を基に日本製で再構築。中でも人気のモデル“ARNEL”を復刻した“AR”は、当時の無骨なつくりも完全に再現しており、オリジナルマニアも唸らせます。
■コンビネーション■BJ CLASSIC BJ クラシック “COM-510B NT”
ブリッジとテンプルにメタル、リムにセルロイドを用いた端正なコンビモデル。ベースはかつてA.O.が手掛けたモデルで、智元にはA.O.の正位継承者の証である羽根飾りが鎮座します。日本の芸能関係者にも愛用者が多いことでも知られるブランドです。
■インナーリム■CLAYTON FRANKLIN クレイトンフランクリン “CF-606”
ブランドのシグネチャーとも言うべき定番モデル。メタルのストラクチャーに、リムの内側に極薄のアセテートを装備した「インナーリム」という手法を用いています。リムに若干のボリュームと色が加わることで、フルメタルと違った柔和な印象が特徴です。
■セル巻き■SAVIL LOW サヴィル・ロウ “OSRC 5”
映画「インディージョーンズ」や「ナインスゲート」で使われた“縄手”のボストンは、リムに薄く漉いたアセテートの輪を被せた仕様。英国の老舗工房「アルガワークス」が伝承する“ロールドゴールド”という製法で一点ずつ造られる、誂えフレームです。
■クラウンパントゥ■ Lesca LUNETIE レスカ ルネティエ “HERI”
前述の通り、ヨーロッパではボストンを“パントゥ”と呼びます。こちらは仏ジュラ地方の小さな工房で今も伝統的な手法でメガネづくりを続けるレスカ ルネティエの作。リム上部のラインがまっすぐで王冠=クラウンを模していることからそう呼ばれています。
まとめ
いかがでしたか?ボストンフレームは1本持っているだけで、さまざまなシーンで活躍してくれます。誠実さの演出に慣れたら、次はぜひ知的不良の装いにもボストンを取り入れてみてください!
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実川 治徳
フリーランスライター
アパレルブランドの店長、プレスを経て2000年からフリーランスライターとして活躍。アイウェアやファッションに特化した記事をメディアに寄稿し続ける。2005年から眼鏡の専門誌として知られるワールドフォトプレス発行の「モードオプティーク」にて、アイウェアの国際展示会SILMのリポートを執筆し、世界中のデザイナーと親交を深める。2016年からはネコ・パブリッシングがバックアップする「V MAGAZINE JAPAN」の編集・執筆を手掛け、世界のアイウェアシーンを発信する。フリーランスのフットワークの軽さを活かし、現在はメガネブランド「GROOVER SPECTACLES」の北米向けセールス&プロモーションを担当。
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