人はなぜレイバンを選ぶのか。その魅力を徹底解剖。その1
どんなにファッションやアイウェアに疎い人でも、その名を知らない人はいないんじゃないでしょうか。そして初めてサングラスを買うとなったら、間違いなくその候補の一つに挙がる……。それほどメジャーなブランド「レイバン」の歴史や人気モデルを紹介します。
CHECK!!
サングラスのパイオニア。その歴史の始まり
「Ray=光(の侵入)をBan禁ずる」、転じて光を遮断するという意味の元でネーミングされたレイバン。これはメーカー名ではなく、ブランド名です。現在、イタリアを拠点とする世界最大のアイウェアカンパニー『ルックスオッティカ』の傘下となっているレイバンブランドは、今もコンタクトレンズでも知られる光学メーカー『ボシュロム』社が創成しました。時代を1920年代まで遡ってみましょう。ボシュロムはすでにバルカナイトという硬質なゴムを使った、量産性に優れた眼鏡フレームで知られる存在でした。その彼らにU.S. ARMY AIR CORPS.(U.S.A.A.C.=米陸軍航空部)のジョン・マクレイディ中尉が、ある注文をします。1923年に北米大陸無着陸横断飛行に成功した中尉は、高高度かつ長時間の飛行で強い紫外線を浴び続けることで眼球疲労や視力低下、さらに頭痛や嘔吐感を体験したと言い、その対策として「眩しさを抑えつつ視認性を確保」できるレンズ付きゴーグルを開発してほしいと(ちなみに当時は“サングラス”ではなく、飛行時に目を保護する=ゴーグルとして認知されていました)いうオーダーでした。
高機能レンズ“G-15”を搭載したティアドロップ
何しろ第一次世界大戦で航空機を使った本格的な作戦が始まったばかりで、アメリカの航空戦力はまだ陸軍の一組織として運営されており、現在のように系統だった装備品もなかった黎明期。当時も眩しさを抑えるゴーグルはありましたが、レンズの濃度を濃くしただけで敵機との空中戦では視界が暗すぎて役に立ちませんでした。そこでボシュロム社が研究の末、1929年に開発したのが後に『G-17』と呼ばれるグリーン系のレンズ。そのレンズを支えるフレームは高高度で必要な、口と鼻を覆う酸素マスクに干渉しない涙滴型の形状と、モダン(耳に掛ける部分)がずり落ちないようケーブルテンプルを装備。そう、皆さんが知っている“ティアドロップ”型です。その有効性が認められ、翌年には正式にA.A.C.に採用されます。
命を護る無骨なギア。ティアドロップ=レイバン
こうして飛行士たちの装備品として採用され、大量に供給されるようになったレイバンのティアドロップ。大空を飛ぶパイロットたちから絶賛されたことは言うまでもありませんが、このサングラスを掛けた飛行士たちの姿は新聞や陸軍が発行する機関誌“YANK”などに頻繁に一般社会の人々の目にも触れることとなります。兵隊の中でもエリート集団である航空隊のヒロイックな存在。その象徴として羨望の的となったレイバンのティアドロップは1936年に、一般市場向けにもアヴィエイター(飛行士)スタイルとして販売を開始し、翌年にはついに「レイバン」というブランド名が誕生しました。その人気の勢いは止まることを知らず、第二次世界大戦でも活躍した後は兵士たちと帰国し、バイカーやハンターなどに愛されたことで無骨なギアとして不動の地位を築きます。連合国総司令官、ダグラス・マッカーサー元帥がレイバン姿で日本人に衝撃を与えたのもこの時代です。
アイウェア界に影響を与え続けるデザイン、そしてスタイル
文字通りアメリカの“顔”となったレイバンのティアドロップはその後も進化を続けます。戦場で発揮された高い性能やデザインはその完成度の高さから、同デザインを踏襲した『アウトドアーズマン』や、より高いフレーム剛性と広い視野を確保するためにリング状のブリッジを設けた『シューター』といったモデルへと派生。それは“ギア”であるだけでなく、冒険的なライフスタイルを投影するアイコンへと存在感を誇示し始めます。レイバンのティアドロップの歩みは、終戦後にワークウェアからファッションへ昇華したもう一つのアメリカン・アイコン、リーバイスの5ポケットジーンズの変遷によく似ています。数多くのハウスブランドがこのスタイルを踏襲したアイウェアを毎年のように発表していることからも、それは窺えるでしょう。そして、誕生から90年以上経った今もファッションのキーアイテムとして、あるいはライフスタイルギアとして強いアドバンテージを持っている。こうした事実がレイバンを神格化している要因の一つなのです。
実川 治徳
フリーランスライター
アパレルブランドの店長、プレスを経て2000年からフリーランスライターとして活躍。アイウェアやファッションに特化した記事をメディアに寄稿し続ける。2005年から眼鏡の専門誌として知られるワールドフォトプレス発行の「モードオプティーク」にて、アイウェアの国際展示会SILMのリポートを執筆し、世界中のデザイナーと親交を深める。2016年からはネコ・パブリッシングがバックアップする「V MAGAZINE JAPAN」の編集・執筆を手掛け、世界のアイウェアシーンを発信する。フリーランスのフットワークの軽さを活かし、現在はメガネブランド「GROOVER SPECTACLES」の北米向けセールス&プロモーションを担当。
この記事へのコメントはありません。