男のメガネ考“跳ね上げ式=フリップアップ”

たとえばバイクのエンジンを掛けたり、カメラのシャッターを切ったり、革ジャンのジッパーを上げたり。その動作の瞬間にやる気モードのスイッチが入る。そんな道具が身の周りにはあります。そう、普段は意識していないかもしれませんが、アイウェアにもその効果があるんです。それは世を忍ぶ仮の姿から正義のヒーローへ変身する時、あるいはそのミッションを終えて、また日常の姿にも出る時に似ているとでも言えるでしょうか。いささか大げさで子供っぽいけれど、男が根源的にもっている変身願望。それを叶えてくれるのが、今回紹介する「跳ね上げ式(フリップアップ)」のフレームです。

 

跳ね上げ式アイウェアとは?

跳ね上げ式とは、レンズをはめ込んだリム(=フレームの枠ですね)を含めたフロント部分が上に跳ね上がる構造のフレームを指します。跳ね上げ、というからバチーンッと勢いよく跳ね上がるタイプもありますが、手で上下させるタイプもあります。

その源流を辿れば、主に鉄鋼関連の溶接工が強烈なアークライトによる目の損傷を防ぐために使用した機能メガネです。溶接時には色の濃いレンズを装備したフリップアップフロントを下ろした状態で作業し、仕上がりを確認する時はそれを跳ね上げる。そんな工程が連続するワーカーが重宝する道具として、20世紀から現代まで活躍しています。

ちなみにトップの画像は第2次大戦時、戦場に駆り出された男たちに代わって銃後を支える女性たちが、溶接工として工場で働く姿を捉えたもので、男性用の大きなオーヴァーオールズ姿に跳ね上げ式の溶接用メガネを掛けています。

他にも老練の職工さんが作業中に手元の仕様書に目を通したり、銀行職員などが細かな帳面を調べるのに使うといったシーンが散見されます。こんな背景からか、10年くらい前までは、昭和の老眼鏡世代の職人さんが愛用していた印象が残っており、オッサンのダサメガネにカテゴライズされてきました。

 

跳ね上げ式アイウェアの魅力とは?

しかし上記のようなイメージは、もう過去のものになりました。もちろん旅好きなモーターサイクリストの間では、いよいよ出発の時に“スチャッ”とフリップアップを下ろしてスロットルを開ける、みたいなドラマチックに旅を演出する小道具として、昔から密かに重宝されてきました。

それが近年では海外のセレブリティたちがファッションアイテムとして掛けこなす姿を見るようになり、また2019年公開の映画「ビーチバム」ではチャールズ・ブコウスキーばりに堕落した主人公を演じるマシュー・マコノヒーが、劇中でスポーツタイプの跳ね上げ式サングラスを着用しているなど、間違いなく露出が増えきています。

つまりサーモントの流れと同様に“ダサメガネ”から“ダサカッコいいギークなメガネ”へ脱皮しつつある。まさに今、跳ね上げ式アイウェアの存在価値が上昇しているのです。

それを裏付けるように、いつくかのアイウェアブランドからも数年前からスタイルとしての跳ね上げ式アイウェアが発表されており、Zoffまでもがその波に乗っかっていることからも、確実に「キテるアイテム」と言えるでしょう。

 

単式と複式。その違いとメリットは?

そんなホットな跳ね上げ式アイウェアには単式と複式という2種類の構造がありますので、購入前にどのタイプが自分に適しているのかを知っておきましょう。

単式とは主にレンズをセットしたフリップアップを跳ね上げると、裸眼になるタイプです。一方の複式はフリップアップの下に、視力矯正用などのレンズを装備したメインリムが設えてあるタイプです。

単式は視力矯正レンズを必要としないユーザーの場合、サングラスとして使用すると良いでしょう。たとえばドライブシーン。サングラスを掛けたままトンネルに入ると、当然視界が暗くなって危険ですよね? そんな時にフリップアップを跳ね上げればトンネル内の視界も良好。そしてトンネルを出たらまたフリップアップを下ろしてサングラスに、といった具合に使えます。

また近視矯正のメガネユーザーなら、日常的にはメガネとして使いつつ、読書など近くを見る場合はフリップアップを上げて裸眼で、という具合に使いこなすことができるのです。

複式はメガネを手放せない諸兄にとっての福音といえる1本です。なぜならフリップアップにサングラスレンズ、メインリムにはメガネレンズを入れておけば、屋外では度付きのサングラス、屋内ではメガネというハイブリッドな使い方ができるのです。これなら外出時にメガネとサングラスの2本を携行する必要がなく、出費も抑えられますね。

 

跳ね上げ式のデメリット

さて、良い事尽くしの跳ね上げ式なのですが、実際に使ってみるとデメリットも見えてきます。それは“フロントに過重があって重い”という点。特にフリップアップを上げている際には、より重心が前に掛かるためノーズパッドが鼻に食い込んだり、フレームがズレてしまうことも。汗をかきやすい夏場は顕著で、よりズレやすいのが難点といえるでしょう。しかしそのデメリットを差し引いても、跳ね上げ式アイウェアがもつ特濃なキャラクターは人を惹きつけます。

 

今、跳ね上げ式アイウェアを手に入れるなら迷わずコレを、の5選

ではお待ちかねの、跳ね上げ式アイウェアのベスト5を発表しましょう。それぞれ一芸に秀でたストロングポイントがありますので、あなたにベストな1本を選んでみましょう。

 

H-fusion “HF-902”


ファッションに訴求する跳ね上げ式アイウェアに、いち早く着目してきたブランドの単式モデル。僕の跳ね上げ人生は高校時代に始まりましたが、2014年頃だったでしょうか。跳ね上げマイブームが再燃し始めた絶妙なタイミングでリリースされたことで嬉々として入手した思い出があります。今でも単式・複式など、さまざまな跳ね上げ式をラインナップしており、間違いなく跳ね上げ式の人気を底上げしたブランドと言えるでしょう。

 

BOSTON CLUB “BUILDER”


自社が30年以上前に手掛けた過去のモデルを現代の技術で再現するコレクション「ボストンクラブ」の複式モデル。残念ながら現在では同名のサングラスがラインナップしているのみで、跳ね上げモデルは廃盤。もし取り扱いのあるお店で見かけたら即買いしたい1本です。ポッテリしたウェリントンシェイプのサングラスを跳ね上げると、小ぶりなナイロール(レンズの一部をナイロン糸で吊る構造)のメガネが顔を覗かせます。

 

THOM BROWNE “TB812”


無骨さがウリの跳ね上げ式をセクシーなラグジュアリーフレームに昇華してしまったのはトム ブラウン。ややクラウンパントゥ(ボストン型の上部が盛り上がってスパッと横一直線にカットされたカタチ)シェイプのフリップアップフロントを跳ね上げると、智元にはシグネチャーのエナメルトリコロールが残るという、ニクイ演出です。サングラスがゴールド、メガネがシルバーというカラーコンビネーションもエロくて素敵です。

 

EYEVAN“Webb-CLIP”


ブランドの定番モデル“Webb”にクリップで取り付けられる別売りのサングラスレンズを装着。このモデルの凄いところはクリップオンであると同時にバネ式のフリップアップ機能が備わっている点でしょうね。跳ね上げ式のデメリットである重さに切り込んで、軽量性に訴求しているのも好ポイントで、レンズはポリカーボネイト素材の偏光レンズが標準装備。クリップオンなので普段は外してメガネとして使える、最強な1本です。

 

GROOVER SPECTACLES “Lot.492”


跳ね上げ式でこれほどインパクトの高いデザインはないでしょう。間違いなく2度見されます(実体験)。複眼式でフリップアップのレンズが3/4サイズという一見中途半端なルックス。しかしこれは溶接用メガネに実際にあった仕様で、本来はカラーレンズ部分で溶接作業をして、その仕上がりを下の隙間から見るという、実に理に適った構造。それをブランド流にアレンジを加えたもので、かなりストリート寄り、かつ攻めのデザインですね。

 

まとめ

いかがでしたか?目立つのはちょっと……という諸兄には居心地が悪いとは思いますが、さりげなく目立ちたい!という諸兄には絶妙な飛び道具に。ガジェット的要素の楽しさ満載ですが、くれぐれもパタパタとフリップしすぎないように気を付けてくださいね!

 

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