雑学目線で語る“スポーツサングラス”
コロナ禍とスキャンダルの中で開催された東京オリンピックですが、いざ競技となるとたくさんの日本人メダリストが誕生したり、スケートボードが脚光浴びたり、と多くの歴史的シーンを見ることができるのは喜ばしいことじゃないでしょうか。
そして卓球混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼選手が試合中に掛けていた「SWANS(スワンズ)」のアンダーテンプルフレームは、アイウェア業界以外の人々にもスポーツサングラスの必要性を広めるキッカケとなりましたね。
そこで今回はスポーツサングラスを語ろう!と思ったのですが、すでに多くが語られているので、お腹いっぱいではなかろうかと。ならばスポーツサングラスを雑学的アプローチで掘り下げてみようとなりました。
CHECK!!
スポーツサングラスの夜明け前
スポーツを大人の趣味として楽しむ習慣が一般化したのは’70年代前後。それまでというとプロのスポーツプレイヤーやお金持ちの道楽といった限定的な世界でした。そんな時代に人々の目を保護していたのは、頑丈なツーブリッジのメタルフレームでした。’70年代のメジャーリーガーたち(上の画像はNYヤンキース時代のレジー・ジャクソン)もこぞってツーブリッジのフレームを愛用していますね。
またバスケットボールの世界では、カリーム・アブドゥル・ジャバーがプレイ中に目を保護するためにゴーグルや視界の開けたアイウェアを掛け始めたことが話題になります。アスリートたちは彼らの経験値から、個々人で目を保護する方法を見つけて実践していたのですね。
ガーゴイルス
オークリーが出現して以来、今ではたくさんのスポーツサングラスがマーケットを彩っていますが、彼らがアイウェア事業に参入を始めたのと同じ年の1994年に一世を風靡したのが「ガーゴイルス」のサングラスでした。そのキッカケとなったのが映画「ターミネーター」。
シュワルツェネッガー扮するターミネーターが中盤から掛けていたのがこのモデルです。フレームレスで210°まで視界が開けた一体成型の大型レンズは、既存の球形のレンズを加工したものと違ってサイドが8カーブ、上下が6カーブというこれまでにはなかったレンズシェイプでした。またポリカーボネイトベースのレンズは.22口径の弾丸を撃ち込んでも壊れないという驚異的なレンズ強度を誇っていました。
聞くところによると、ミリタリーユースとして開発され、一般にはスキーやモータースポーツ、ガンシューティングといったコンペティションスポーツギアとして紹介されていました。ターミネーターの公開後も「ゴリラ」、「ダーティーハリー4」などで見かけましたが当時の爆発的ヒットも長くは続かず、オークリーにその座を奪われてしまったカタチになりました。
パラサイト
サイファイ=SF映画の登場人物さながらの、フューチャリスティックなアイウェア。パラサイト=寄生虫という刺激的なネーミングは、まさに“名は体を表す”風情で、顔に張り付いたようなデザインは一目で同ブランドだと判ります。そんなエキセントリックなブランドがなぜこの記事に登場するかというと、その理由は出自にあります。
デザイナーのヒューゴ(フランス語読みではウゴと発音します)・マーティンがこのデザインに辿り着いたのは、「どんな姿勢でもズレないフレームが欲しい」というフリークライマーの友人からの依頼。ルーフ(天井のような壁面)の移動や、ダブルダイノ(ジャンプして次のホールドに移動する)といったテクニックを要する局面では、メガネのズレは命取り。
そこで彼が考えたのが、テンプルを耳に掛ける従来のフレームデザインを覆す“ダブルテンプル”。二股に分かれたテンプルがこめかみの上下をホールドすることで、逆さまになっても最適な位置をキープするストラクチャーだったのです。
オークリー
最後に紹介するのがスポーツサングラスの代名詞「オークリー」です。スポーツサングラスという新しいアイウェアのジャンルの扉を開いたパイオニアですが、創業者のジム・ジェナードが初めて売り出したのはBMX用のハンドグリップでした。
その資金はたったの300ドルです。彼らが開発したグリップは汗や水分により、さらにグリップ力が増す素材で、その名もアンオブタニウム。そう、現在オークリーのフレームに装備されているノーズパッドなどに使われている素材です。
そのノーズパッドと金型から成型した一眼式のレンズを搭載して1984年に最初のアイウェアを発表したのが、アイウェアビジネスの始まり。評判があっという間に広がったことは皆さんもご存じでしょう。
ちなみに当時、僕が愛読していたコンバットマガジンという雑誌で、アメリカのガンシューティング大会“STEEL CHALLENGE”のリポート記事があったのですが、すでに多くの選手がオークリーを愛用していました(その記事では表記がまだ“オークレイ”でした)。
頑丈さと視認性の高さはアメリカ軍の特殊部隊員の目にすぐ止まることになりました。個人で装備を調達することを許された特殊部隊員が自費購入して使い始めたことがキッカケで正式採用され、今では様々なブランドのスポーツフレーム型のアイシェードが一般兵にも支給されています。これもオークリーの功績であることは間違いありませんね。
また、オークリーはアメリカ軍と共同で歩行性や堅牢性、軽量性に優れたコンバットブーツも開発し、こちらも特殊部隊を中心に採用されています。
たった300ドルの資金で起業し、ハンドグリップからスポーツフレームへと大きくトランスフォームした、ジム・ジェナードの才能と商機。それだけでもすごいですが、ジェナードは世界最大のアイウェア企業「ルクスオティカ」に会社を21億ドルで売却し、新しいビジネスを始めました。
カメラ蒐集家でもあったジェナードはなんと、デジタルカメラの会社を立ち上げたのです。「レッド・デジタル・シネマカメラ・カンパニー」という会社です。その名が示すように、映画撮影に適した高画質のデジタルカメラを開発したわけですが、いまやそのカメラで撮影した映画をあなたは知らず知らずのうちに観ています。
一例をあげると「アメイジングスパイダーマン」「華麗なるギャツビー」「ゴーンガール」「ミッドウェイ」、邦画でも「テルマエ・ロマエ」「進撃の巨人」などなど。もうオークリーのフレームを持っていなくとも、皆さんの多くがジェナードのプロジェクトを“目”にしているってことですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。スポーツサングラスを真面目に解説するのが本筋なのでしょうが、今回はあえて雑学的な視点でお話してみました。皆さんもぜひお手持ちのメガネの雑学を掘り下げてみてください。きっと意外な歴史が隠されているかもしれませんよ?
おすすめ商品
実川 治徳
フリーランスライター
アパレルブランドの店長、プレスを経て2000年からフリーランスライターとして活躍。アイウェアやファッションに特化した記事をメディアに寄稿し続ける。2005年から眼鏡の専門誌として知られるワールドフォトプレス発行の「モードオプティーク」にて、アイウェアの国際展示会SILMのリポートを執筆し、世界中のデザイナーと親交を深める。2016年からはネコ・パブリッシングがバックアップする「V MAGAZINE JAPAN」の編集・執筆を手掛け、世界のアイウェアシーンを発信する。フリーランスのフットワークの軽さを活かし、現在はメガネブランド「GROOVER SPECTACLES」の北米向けセールス&プロモーションを担当。
この記事へのコメントはありません。