“マニア”を極めたオトコたちが創った、奇跡の5冊

はじめに

今に始まったことではありませんが、出版業界の衰退ぶりがものすごいです。なにしろ出版に携わっている僕が、ほぼ雑誌の類を買わなくなってしまったほど……。それでも欲しい本、その人にとっての家宝に等しい本、というものがあります。今回は2021年最後のブログ更新、ということで思いっきりメガネから脱線してオトコのワードローブにまつわるマニアックな図書を推薦したいと思います。

ここに列挙するのはファッションの中でも、主にヴィンテージウェアの求道者による著書で、綿密なリサーチによる膨大な、そして貴重な情報が詰まったものばかり。ファッション関係者の経典であり、僕のようにニッチな話題の執筆に欠かせない資料であったりします。彼ら著者に共通するのは、知りたくて知りたくて、とことん掘り下げていった結果として、いつの間にやらその道のトップランナーになっていたところでしょうか。では早速本編へ。題して「“マニア”を極めたオトコたちが創った、奇跡の5冊」。

Levi’s VINTAGE DENIM JACKETS

出版社:WORLD PHOTO PRESS
著者(監修):藤原裕・川又直樹

ともに古着屋の店主で自身もデニムコレクターでもある両著者が、リーバイスコレクターのネットワークと行動力で集めたヴィンテージ・リーバイスのデニムジャケット(Gジャン)の写真集、あるいはアーカイヴ。ちなみに本書に先んじてリーバイスの5ポケットジーンズ、501XXに特化した“THE 501 XX COLLECTION OF VINTAGE”が発行されています。

閉山された炭鉱から発掘された原始的なジャケット(プリ―テッドブラウス)から、何十年も前に発売されたままの姿で現存するデッドストック、当時の労働者が着倒して独特の色落ちを見せるモノ、通常とは仕様が異なる仕様のモノまで様々な時代の、様々な顔をもつデニムジャケットが誌面を埋め尽くしています。当時の広告やプライスリスト、商標登録などの資料も掲載があり、リーバイス本社とも連携して情報の精度を高めているのも特筆すべき。

おもしろいのが、掲載されたヴィンテージ・ピースのほとんどを日本のコレクターが所有しているという点。本国アメリカでもこれほど希少なブツが揃うことはないでしょう。日本人の探求心によって系統立てられ、それがヴィンテージ・ジーンズのワールドスタンダードとなったことを考えると納得できますね。

 

My Freedamn! 10

出版社:CYCLEMAN BOOKS
著者:田中凛太朗

20世紀の初頭~1980年代のストリートファッションまで、ヴィンテージ・アメリカーナと、それらを起源とする世界を掘り下げた「マイ フリーダム!」シリーズの最終章。世界中のコレクターの協力で集めたヴィンテージ・ピースや愛好者たちの取材など、様々な角度からアメリカのファッションに切り込んだ誌面作りは秀逸で、読者を飽きさせません。

著者の田中凛太朗さんは「革ジャン物語/扶桑社刊」、「ライダースジャケットを着る人生/イーストライツ刊」の他、自費出版でライダースジャケットやヘルメット、アクセサリーなどに特化した書籍を輩出してきた人物。他にもハーレーダビッドソンやショット、ウエスコ、ルイスレザーといった名だたるブランドの変遷をまとめたヒストリカルブックも手掛けています。

現在、田中さんはカリフォルニア州サンクレメンテを拠点として「マイ フリーダム!」シリーズから発展して世界のヴィンテージマニアが注目するイベント「インスピレーション」を開催しており、彼の活動はもはや社会現象にまで発展しています。

 

20世紀ロックTシャツ大図鑑“LISTEN TO THIS T-SHIRT”

出版社:WORLD PHOTO PRESS
著者:竹石安宏

今でこそ復刻や企業とコラボしたロックTシャツ、それをアイデアソースにしたグラフィックTシャツなどが市民権を得ていますが、ヴィンテージのロックTシャツに価値を見出し、その潮流をつくったともいえる1冊でしょう。

本書のおもしろいところは、グレイトフルデッドを中心に、オフィシャルだけでなくツアーTシャツ、プロモーションTシャツ、ツアーのスタッフ用Tシャツといったレアモノに加え、ブートレッグ(無許可で作られた海賊版)までをコレクションの対象としているところ。

実は著者の竹石安宏さん、’90年代に同じ会社の先輩でして。当時、誰も見向きもしなかったヴィンテージロックTシャツを多い時で週2~3枚ペースでコツコツと買い集めていた記憶があります。20年にもわたる膨大なコレクションは圧巻で、一見の価値ありです。残念ながら現在は絶版のようですが、オークションサイトなどで発見したら即購入をお奨めします。

 

FULL GEAR

出版社:自費出版
著者:青田充弘

アメリカ軍が飛行士たちの能力を100%出せるように開発したフライトジャケットは、今も多くのアパレルデザイナーにインスピレーションを与え、究極の機能美と言われる存在。様々な用途に応じてつくられ、航空機とともに進化していったフライトジャケットは、ゆえに多くのマニアを抱える王道のギア服です。

それを難解な資料を読み解きながら変遷を追い、納入した業者やその発注番号、採用年まで調べ上げて表にまとめた一冊。オールカラーで写真展数も豊富なうえ、見たこともない古い飛行ツナギや戦時中に許容された市販のフライトジャケットなど、目を見張るヴィンテージ・ピースに出会えます。また、調査の過程でマニア間でも通説となっている事柄がその資料によって覆ったりと、結構な衝撃を受けた本です。

何が凄いかというと、著者の青田充弘さんは大手電子部品メーカー勤めながら、これを個人でデータ収集し、自費出版で発行した熱意。自費出版であることと、濃厚な内容により定価2万円という高値ではありましたが、それでもお釣りが出るくらいの情報量です。残念なことに本書はすでに絶版で、時価10万円のプレ値がついています。しかし現在でも、この本をキッカケに史上初めてジッパーの年代解読に成功し、その変遷をまとめた「ZIPPER GEAR」が販売中。興味のある方は手に入れておいて損はないでしょう。

 

Frame France Vol.2

出版社:Pols books
著者:山村将史・柳原一樹

そしてやっぱり最後はメガネの本を。すでにチェック済みという諸兄もいらっしゃるかと思いますが、神戸のフレンチヴィンテージフレーム専門店「SPEAK EASY」代表の山村将史さんと、札幌のヴィンテージフレーム専門店「Fre’quence」代表の柳原一樹さんの共著によるFrame France、その第2弾です。

屈指のフレンチヴィンテージフレーム専門家である2人による本書は、左ページにテンプルを伸ばしたフレームの斜めカットを、右ページにはそのフレームをバラしてネジまで並べたカットをレイアウトした構成。それぞれが原寸大でプリントされています。

ページを捲るごとに現れるユニークなメガネを鑑賞し終えた時、貴方はすでにフレームフランスの魅力に取り憑かれていることでしょう。今では失われてしまった、職人による手仕事の崇高さを1940~60年代を中心としたフレームの向こう側に見せてくれる、そんな貴重な写真集です。

 

まとめ

“情報”という本の重要な役割を今ではインターネットの検索エンジンが果たしていますがそれでは拾いきれない、あるいは存在すらしないニッチな情報はまだまだあります。そんなマニアックなネタの数々を自らの足とアナログなネットワークで集め続け、本にまとめた「本気」のオトコたちの熱意。いずれも書籍にして1万円を超える価格ですが、それだけの価値があります。ズッシリと重い、その本に触れてみることをお奨めいたします。

 

 

 

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