男のメガネ考“シルバーフレーム”

今回紹介いたしますは、またもや「他とは違うワンランク上」のメガネ。銀=シルバー製のフレームです。シルバーといえば男が身に着けるアクセサリーとして身近な存在。ゴールドはセクシーな男の色気を引き出す飛び道具として有効ですが使い方を間違えると単なるエロオヤジになってしまいます。一方のシルバーはインディアンジュエリーやバイカー系のアクセサリーの流れから呪物的なイメージがあり、メンズのライフスタイルに親和性が高く、取り入れやすいアイテムといえるでしょう。そんなシルバーをメインマテリアルに使ったスペシャルなメガネを掘り下げてみましょう。

 

シルバーフレームの歴史

シルバーフレームの歴史は、実はかなり古くて18世紀にはすでに存在していたようです。その源流は英国にありました。英国は12世紀頃に銀貨をシルバー925(銀の含有量が925パーミル=92.5%)で鋳造する技術を習得し、その品位を925=スターリングと呼び、法で定めた経緯がありますから、その加工技術も練達していたのでしょう。もちろんこの当時のメガネは一般向けではなく特権階級、たとえば政治家や宗教家、貴族といった階層に限られており、視力矯正具であるとともに富を象徴するアクセサリーでもありました。

やがてアメリカの上流階級向けの洋品店などにも輸出されるようになりますが、独立戦争を境に英国からの輸入が事実上ストップしたことで、アメリカでも独自のメガネ製造がはじまります。1815年にフィラデルフィアの紳士用品店、JOHN McALLISTER(ジョン・マキャリスター)が先陣を切り、遅れること1833年にAMERICAN OPTICAL(アメリカンオプティカル=現存するアメリカ最古のアイウェアブランド)がシルバーを始めとする金属製のメガネフレームを供するメーカーとして知られるように。

これらのアンティークフレームの驚くべきは、プレス機械などない時代に銀貨を溶かしたコインシルバーを手作業で加工しているにもかかわらず、テンプルに折りたたみ式やテレスコピック(伸び縮み)などの複雑な機能を携えていること。そして手作業で丹念に叩き延ばして成型したことで十分なバネ性もあるということ。これを現代のメガネ産業技術で再現するのは非常に困難だと言われています。

 

シルバーフレームの最新事情

その後、さまざまな合金の開発に加え、金張りやメッキ加工技術の向上により、シルバー製のフレームは19世紀頃まで散見されるものの、20世紀にはほとんど見られなくなりました。それが近年になって再び注目を浴びる存在になってきたのです。

厳密にいうと水面下ではカスタムメイド(=オプティカルテーラー クレイドルのチョイスオーダー)やショップオリジナル(=グラスファクトリーのナチュラルコレクション)、また貴金属フレームのスペシャリストとして水島眼鏡の「MIZ GOLD-EYEWEAR」なども健闘しています。そうそう、2010年には白山眼鏡店からもリリースされていますね。


ちょっとマニアックなところで言えば、かつてレバノン出身のタノス・ハダット氏がデザインする「Design MASKE Berlin(デザイン マスケ ベルリン)」が供したミニマルなシルバーフレームは、まさに孤高の挑戦とも言うべき存在でした。ヘアラインや木目金といった変則的なスタイルでマニア心をくすぐりましたが、残念ながらメガネとしての当時のクオリティはあまり良いものとは言えず。また彼の逝去をして姿を消してしまったことで、その先の進化を見届けることはできませんでした。

そんな知る人ぞ知る存在だったシルバーフレームが、最近になって脚光を浴びるようになったのです。その要因を考察すると、二つのキーブランドの存在が大きいのではないか、と推測することができます。


その一つがアンティークフレーム・コレクターの大家でもあり「LUNOR(ルノア)」の創設者が、自身の名を冠して立ち上げた「GERNOT LINDNER(ゲルノット リンドナー)」。兼ねてからシルバーフレームの実現化を志してきたリンドナー氏が、前述したアンティークのシルバーフレームのように美しく機能的な、そして完成度の高いインダストリアルプロダクトとして再現すべく、エンジニアとともに製作機械から開発して、ようやく2017年に発表したものです。柔らかく変形しやすい、そして弾力性に乏しく重いシルバー素材を見事に現代基準のクオリティで実現したことは、メガネ業界に新風を吹かせました。


そしてもう一つがバッファローホーンを1点ずつ、ハンドメイドにてアバンギャルドなデザインに昇華してしまう鬼才「REGARDS(リガーズ)」の台頭ではないでしょうか。天然素材のデザインにおけるセオリーを逸脱した優れたデザインで、一躍アイウェア界の寵児となった彼らのシルバーフレームは、いかにもなクラシックデザインとは一線を画し、幾何学的な多面カッティングや鎚起銅器のような凹凸、経年を想わせる表面のザラつきなどを前面に押し出す、前衛的で有機的なもの。日本でも取り扱うお店が少しずつ増えてきたので、一度は手に取ってみることをお勧めします。

まとめ


いかがでしたでしょうか? クラフツマンシップの世界とインダストリアルの世界が交差するシルバーフレーム。価格はそれなりに高いので、ホイホイ購入することはままならないですが、起業や記念日など、節目の時に一念発起して手に入れればその後の人生を豊かにしてくれそうです。そしてシルバーならではの経年変化をアイウェアでも感じる……。そんなクオリティ・オブ・ライフをシルバーフレームで味わってくださいませ。

 

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