眼鏡の価格
地元の20代の若い理容師達と将来の店作りから、跡を継ぐ時にどうすれば良いか?これまでどうやってきたか?を最近聞かれることが多くなりました。私はかなり早く店を継いだのと父親の体調のこともあり、親子間で経営方法の衝突こそありましたが微々たるものだったと感じております。それを良いことに好き勝手やりたいことが出来ました。
意外と言っては失礼なのですが、若き理容師達は親子間のそういった関係性に配慮しながら継承を進めていて驚きました。私には全く無かった思考だなと、40歳を超え自分の至らなさをただただ悔いるのであります。
そんな彼らと”お店のサービス”について話すことがありました。
理美容師はご存知のように「手に職」であり、もっと言うと私達のような小売業に比べ原価は限りなくないわけです。それ故に格安店の参入を許しやすく、¥1000カットになるまでに価格破壊が進んでいるのです。単価を守りながら付加価値をどう付けていくかを連日話し合っています。
そこでヒゲ剃りをする際のスチーマーの導入はどうか?という話になり、”結構高いんですよ”って言うのです。
「どのくらいするものなの?」と聞くと「30万円くらいだと思います」と。
おいおい私はこれまでお客様への満足感を向上させるための使った設備投資はそれどころじゃないぞ!って思ったわけです。
利益率からすれば出せない金額ではないだろうと思いますが、そういった設備を導入している理容室は少ないそうです。頑張ってそういう付加価値を足していけたら良いねと話しました。
そこで私はつくづく眼鏡屋をやるにはお金が掛かり過ぎるなと感じました。
これは私達のような個人店も大手も中堅もそれほど変わりません。
例えばメガネナカジマで使用している機器の価格は↓
メガネナカジマで使う検眼機 → メルセデスベンツのCLAクラスが新車で買えます。
メガネナカジマで使うレンズ加工機 → メルセデスベンツのGLAが新車で買えます。
メガネナカジマで使う視力測定器 → メルセデスベンツのC-Class Sedanが新車で買えます。
メガネナカジマではNIDEK社の最上位機種を採用していますが、ほとんどの眼鏡店が最初にここまでいかずとも新規店を出す場合に必要な機材です。この他にもレンズメーター・検眼レンズなど細々とした設備も積もると結構な金額になります。割賦とは言えフルスイングで設備投資しているわけです。「あの金で何が買えたか?」としばしば思うこともあります。
最近では眼鏡店の起業時に機器の割賦契約が通らないなどの話を聞くようになりました。これでは若い眼鏡屋さんが開店できず、チェーン店ばかりになってしまいます。これは非常につまらない。
こう考えると普通にいけば眼鏡の価格はそこそこになってしまいます。
では「どうしてJINSさんやzoffさんのような低価格眼鏡ショップは安いのか?」と疑問に思われるかも知れません。家賃は個人の眼鏡店よりも遥かに高いところへ出店しているのにも関わらずです。
その回答としては”価格が安い”ってことが「価値」ですから、そこは徹底的にやったわけです。
アルバイトが検眼・フィッティング・接客し人件費を抑制し、製品も利益率の高い中国製がほとんどで利益を確保しています。
メガネナカジマはその逆で、家賃はJINSさんやzoffさんに比べて高くはありませんが、原価率は国産フレームや新設計のレンズを使用するので高くなりがちです。
ではJINSさんやzoffさんは「薄利多売」であるか?と言えば違います。
従来の眼鏡店のビジネスモデルに近い「パリミキ」さんと「JINS」さんは売上規模が近いのですが、利益が全然違います。JINSさんの方がめっちゃ儲かっています。
家賃が高いところへの出店が多く固定費は同じように掛かるのに、JINSさんの圧勝なんです。なので「多売」ではあるのですが「薄利」ではないのです。原価率はJINSさんの方が約10%ほど低いので、眼鏡屋からの視点から見るとパリミキさんの方が高いけれど「良いもの」を販売されていると思います。この「良いもの」がお客様一人ひとりによって勘所が違うわけです。
こういった安売りの流れは80年代以降の”ディスカウンター”チェーンの台頭でメガネ業界は経験しています。ですのでJINSさんやzoffさんの価格破壊の流れにおいてビジネスが新しいかと言えば、少しやり方が違うけど昔からあった手法だと思います。ちなみに眼鏡業界の旧御三家「メガネトップ(眼鏡市場)」さん、「パリミキ」さん、「メガネスーパー」さんがそう呼ばれております。
JINSさんやzoffさんも登場から20年が経過し、ブランディングや製品開発に力を入れてきたわけです。そうすると「安くしすぎなくても良い」というフェーズに入ってきたと思います。2001年にzoffさんが下北沢へ第一号店を出店した際に私は調査のため購入しました。その時のプライスはフレーム+レンズで¥3000・¥5000・¥7000であったことから3プライスと呼ばれました。
現在のJINSさんの店頭価格を見ると¥10000前後のものが多く、¥18000のシリーズもありました。かつてのディスカウンターチェーンも安売りに限界が見えて、チラシによるオトリ商法が横行しました。それに比べたら商売的にはキレイですが、激安な価格では無くなってきているように思います。
お客様がどこに価値観を感じられるかであると思うのですが、メガネナカジマでは私がこのくらいの眼鏡を作りたいという基準線の上に価格を設定しています。
それは格安眼鏡店よりも高いかも知れませんが、もしかしたら従来型のメガネチェーン店よりも安いかも知れません。
私にとってメガネ作りはライフワークそのものなので、自分の趣向分で購入し使用している機材費は価格に転嫁させないと決めております。
スタンダードモデルから角膜形状/屈折力解析装置へグレードアップした後も価格は上げておりません。
それぞれのお店にとって、価値と価格のバランスをとっていくのは永遠のテーマなのかも知れません。
中島 正貴
有限会社スクランブル 代表取締役
1999年にメガネ業界に入る。新宿の紀伊国屋にあった三邦堂(閉店)でドイツ式両眼視測定を学ぶ。2006年よりメガネブランド「GROOVER」を立ち上げ、国内外の展示会へ出展する。2011年より世界初のレンズカスタムレーベル「GOODMAN LENS MANUFACTURE」を立ち上げる。2016年より世界のアイウェアシーンで有名なアイウェアマガジン「V.MAGAZINE」、アイウェアエキシビジョン「V.O.S」の日本開催権を取得。ネコ・パブリッシングの協力により「V.MAGAZINE JAPAN」の刊行と、「V.O.S TOKYO」を開催する。2021年には日本発のスポーツサングラスブランド「XAZTLAN」を発表。2022年、メガネの「ホントにミニマムな国際展示会RAMBLE」を7年ぶりに復活。2023年、5坪のメガネ屋「陽ハ昇ル GROOVER×XAZTLAN」を表参道にオープンさせるなど精力的に活動中。
職歴
・メガネナカジマ代表
・陽ハ昇ル GROOVER×XAZTLAN オーナー
・GROOVERデザイナー
・GYARD主宰
・XAZTLAN(ザストラン)ファウンダー
・東京セイスターグループ理事
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