ブルーライトカットメガネの件に思うこと

先日、日本眼科学会など医療系6団体から「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」という意見書が発表されました。

お時間あれば、ぜひ全文を読んでみてください。内容を誤解しないためにも。
https://www.gankaikai.or.jp/info/20210414_bluelight.pdf

さて、意見書を読めばわかるのですが、今回発表されたのは、あくまで”小児の装用”についてです。文中には、

小児にとって太陽光は心身の発育に好影響を与えるものであり、なかでも十分な太陽光を浴びない場合、小児の近視進行のリスクが高まります。ブルーライトカット眼鏡の装用は、ブルーライトの暴露自体よりも有害である可能性が否定できません。‬

最新の米国一流科学誌に掲載されたランダム化比較試験では、ブルーライトカット眼鏡には眼精疲労を‪軽減する効果が全くないと報告されています。‬

との記載があります。
この件でバズったツイート(現在は削除されています)には「小児」との記載がなく、「むしろ悪影響」といったことが書かれていたため、Twitter上には「悪影響なの?」「せっかく買ったのに!」といった、メガネユーザーのつぶやきが多く見られました。

もしブルーライトカットメガネを掛け続けることに不安があるのなら、SNSを見るよりも、ぜひそれを購入したお店に相談してみてください。信頼できるお店であれば、きちんと説明をしてもらえるはずです。

先日アップされた こちら の記事にもブルーライトのことが丁寧に解説されているので、ぜひ読んでみてもらえれば。とにかくまず業界がすべきは、今回のことで生じたユーザーの疑問や不安を取りのぞくことなのではないかと私は思います。

 

なぜ小児の装用について発表があったのか


じつは、今回の意見書が発表される数日前、小学校の保護者会で、1年生になったばかりの我が子にもパソコンが貸与されるという話がありました。そう、今年度から多くの公立小中学校で、児童生徒に1人1台のパソコンやタブレット端末が配備される「GIGAスクール構想」が始まっているんですね。きっと「子どものブルーライト対策をどうしたら…」と焦った親御さんも少なくないでしょう。

そうしたなかで、今年の3月には「大手メーカーが、4月から渋谷区の小中学校に通う全児童・生徒にブルーライトカットメガネを寄贈する」という発表もありました。もしかしたら、このGIGAスクール構想に関連して、このような一律配布の動きや、子どもへの販売促進が一気に進みそうなタイミングだったのかもしれません。今回の意見書は、文中にある米国眼科アカデミーの発表に加え、このGIGAスクール構想をめぐる動きを受けての発表だったのかなと思っています。実際にこの意見書を受けて、渋谷区は小中学生へのメガネの配布を中止する方針だそうです。(※1)

 

メガネは一人ひとりにあつらえるもの

今回の件に関しては、SNS上で眼鏡店の方や眼科医の方が様々な意見を述べられています。ですので、ここではブルーライトカットメガネの是非を語ることはしません。ですが、改めて伝えたいのは、メガネは一律に配布するべきものでもなければ、雑貨のように自己判断で購入するべきものではないということです。

たとえばパソコン作業で目が疲れるのであれば、その理由はブルーライトではなく、遠方重視の度数で近い距離を見続けているからかもしれない。疲れの原因が眩しさにあるのならば、眩しさを防ぐレンズにもさまざまな選択肢があります。

ですが、そうした選択肢や、“見たい距離に合わせて度数を決める”といった話があまりに知られていないから、“掛ければ眼精疲労が治る”かのように、ブルーライトカットメガネが浸透してしまったのでしょう。今回重要なのは、そこだと思っていて。メガネを作るにあたって大切な情報が、まだまだ伝わっていないんですよ。

いろいろと混乱はあったようですが、「眼精疲労の原因は、ブルーライトだけに限らない」ということが広く知られたという点で、今回の件はユーザーにとって良い機会になったと捉えるべきなのでしょう。ですが、これだけメガネに注目が集まったのだからこそ、今回のことをブルーライトだけの問題に矮小化してしまうべきではないし、ポジショントークの材料にして終わってしまうだけでは、残念ながら何も変わらないのだと思います。

私自身、メガネユーザーとして思うこともあれば、メディアの側にいる人間として考えさせられることもありました。いつもとは少し毛色の違うコラムになりましたが、この件を忘れないためにも書かせてもらった次第です。

(※1)2021年4月16日 読売新聞オンライン
目の疲れ防ぐとして市販、青色光カット眼鏡「子どもの発育に悪影響」…医療系6団体が意見書
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210416-OYT1T50176

 

 

 

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。